2015年7月27日月曜日

中国の反日恫喝を逆手に(2):問題は誰が「利を得ている」かということだ

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 いくら能書きを言ったところで、問題は誰が「利を得ている」かということだ。
 日本なのか、中国なのか。
 

現代ビジネス 7月27日(月)6時2分配信 高橋 洋一
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150727-00044375-gendaibiz-pol

反対しているのは中韓だけ!
集団的自衛権「世界の常識」が理解できない左派マスコミにはウンザリだ

 先週の本コラム
 「集団的自衛権巡る愚論に終止符を打つ!  戦争を防ぐための「平和の五要件」を教えよう」
(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44269)
について、ある国際政治関係者から
 「今の日本の安全保障論争のみならず、論点を明確にいえない日本の国際政治・関係論にも挑戦にもなっている」
と冷やかされた。

 ポイントをいえば、つぎのとおりだ。
 きちんとした同盟関係をむすぶことで40%、
 相対的な軍事力が一定割合(標準偏差分、以下同じ)増すことで36%、
 民主主義の程度が一定割合増すことで33%、
 経済的依存関係が一定割合増加することで43%、
 国際的組織加入が一定割合増加することで24%、
それぞれ戦争のリスクを減少させる(ブルース・ラセット、ジョン・オニール著『Triangulating Peace』171ページ)。

 世界の多くの国がどこかと何らかの同盟関係をなぜ結ぶかといえば、そのほうが戦争のリスクを減らせるからである。
 集団的自衛権の行使は同盟関係の基本中の基本なので、何らかの同盟関係を結んでいる国では、本来、議論にさえならない。

 この点、日米同盟がありながら、集団的自衛権の行使の是非を議論する日本は不思議な国だ。
 多くの国では、日本が集団的自衛権の行使をするといったら、同盟関係がありながら集団的自衛権の行使を認めなかったこれまでの「非常識」を、世界の常識に変えるくらいにしか思わない。

 本コラムで何度も指摘しているが、集団的自衛権の行使は、
①:戦争のリスクを減少させること(最大40%程度減)、
②:防衛費が安上がりになること(自前防衛より75%程度減)、
③:個別的自衛権の行使より抑制的(戦後の西ドイツの例)から望ましい
のだ。

 このような事情があるので、世界の国では、日本の集団的自衛権の行使について、ほとんど国が賛同している。
 ここ1、2年のニュースを調べただけでも、
アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、ベトナム、マレーシア、タイ、インドネシア、ミャンマー、インドなどの国のほか、EU(欧州連合)、ASEAN(東南アジア諸国連合)
も賛同のコメントを出している。

 つまり、世界では集団的自衛権は広く認知されている。

■?なぜ韓国まで反対するのか

 しかし、例外もある。
 中国と韓国は日本の集団的自衛権の行使について、支持していない。

 まず、中国が反対であるのは、中国が海洋権益を拡大するには日本が障害になるので、中国の国益を考えると納得できる。
 中国は武力衝突も国益のためにはやむを得ないと考えるので、日本の防衛力強化には反対なのだ。
 逆に日本にとって、これは看過できない。

 中国が反対で、世界の国が賛成ということは、
 日本の集団的自衛権の行使は間違っていないという証になる
だろう。
 もし、集団的自衛権の行使で、日本が戦争する国となるなら、世界の国が賛成するはずないからだ。

 それにしても不思議なのは、韓国である。
 一応、民主主義かつ資本主義国である。
 韓国は、ベトナム戦争では集団的自衛権を行使している。

 先週本コラムのアジアでの戦争の表(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44269?page=3)では、朝鮮戦争において、日本は参加していないとされているが、日本の海上保安庁が朝鮮水域において国連軍のために機雷掃海を起こったことは周知の事実である。
 これは、日本が韓国のために集団的自衛権を行使したといってもいいかもしれないほどだ。

 こうした事実がありながら、韓国は日本になると、何でも反対でまったく理性がなくなるとしかいえない。
★.朝鮮半島の地政学的な位置から、常に中国の強い影響下で行動してきた歴史から、中国の態度を過度に恐れている
のかもしれない。

 ただし、日本の集団的自衛権の行使を認めようとしない韓国の感情的な反応は、
 朝鮮半島が有事になると一気にすっ飛ぶはずだ。

 日本には、米軍の他に、国連軍もいる。
★.米軍の横田基地に、国連軍後方司令部(United Nations Command-Rear)
があり、
★.在日米軍基地のうちキャンプ座間、横田空軍基地、横須賀海軍基地、佐世保海軍基地、嘉手納空軍基地、ホワイト・ビーチ地区、普天間海兵隊基地が
 国連軍施設に指定
されている。

 国連軍司令部のほうは韓国にある。
 こうした国連軍の体制は、1953年7月に朝鮮戦争が休戦となり、休戦協定が発効した翌54年2月以来である。
 朝鮮戦争はいまでも休戦状態であり、終戦ではない(5月25日付け本コラム http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/43454)。

■?韓国のロジックは破綻している

 もし朝鮮半島で有事になれば、「国連軍地位協定(日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定)」によって、これらの米軍基地は、日本政府の同意を得て使用されるはずだ。
 つまり、日本の基地使用について、事前協議にかかるわけだ。
 ここで、韓国が、日本の集団的自衛権の行使を認めないとなると、事前協議において、日本が同意できなくなってしまう。

 こうしたロジックについては、安倍首相も、2014年7月15日の参議院予算委員会でも、次のように答弁している。

 「集団的自衛権の行使をしない国というのはスイスを始め極めて少数でございまして、
 そのほとんどは行使が可能という国でありまして、
 日本はそうした国々よりも極めて制限的に行使を今回認めることになったのでございますが、
 そうしたことも含めて、
 これは韓国にとってどういうことなのかということもしっかりと韓国に理解していただけるようにしたいと思いますし、
 そもそもそうした事態において、救援に来援する米国の海兵隊は日本から出ていくわけでありまして、
 当然これは事前協議の対象になるわけでありますから、
 日本が行くことを了解しなければ韓国に救援に駆け付けることはできないわけでありまして、
 その上においても、本来、日米韓の緊密な連携は必要だと、
 こういうことも含めて理解を求めていきたいと、このように考えております。」

 国連軍について、日本は、
 オーストラリア、カナダ、フランス、ニュージーランド、フィリピン、タイ、トルコ、アメリカ、イギリスの9ヶ国と国連軍地位協定を締結
している。
★. 米軍の横田基地には、日本とアメリカの国旗とともに、国連旗がたっている。

 これらの国では、これまでの日本の集団的自衛権の考え方は、かなりおかしいと思っていたはずだが、今回の安保関連法案で少しはましになると考えているだろう。
 まして、韓国が反対するとは、思っていないはずだ。
 だから、これらの国では、朝鮮半島が有事になれば、ほぼ自動的に日本は基地利用を認めるはずと思っている。
 もし韓国が日本の集団的自衛権の行使に反対と聞いたら、さぞかしびっくりするだろう。

■?確率論が分からないマスコミ

 それにしても、日本の左派マスコミ・知識人の反対ぶりはちょっと異常だろう。
 これだけ、戦争のリスクを減らすものとして世界で支持されているのに、根拠もなしで戦争法案とかのレッテル貼りは酷い。

 まあ、確率論が苦手なのは仕方ない。
 当たり前の正当防衛(英語でいえばself-defense、自衛権と同じで「他衛」も含む。2014年5月19日付け本コラム http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39296参照)であっても、
 他衛のリスクだけに気を取られて、抑止力で攻撃されないメリットを忘れてしまう。

 こうした確率論をしっかり認識できないことはしばしばある。
 例えば、誕生日パラドックスとして知られていることだが、ある人数のグループで同じ誕生日の人がいる確率が50%を超えるのは何人以上のグループかと、聞くと、多くの人は正解より大きな人数を応える。
 さすがに、365人ということはないだろう。
 365人のグループなら、少なくとも一組は同じ誕生日だ(うるう年を除く)。正解は23人である。
 41人で90%を超え、57人で99%を超える。

 そんなはずないと思うかもしれないが、多くの人は自分と同じ誕生日と誤解して、自分以外の二人が同じ誕生日になることを考えられないからだ。
 ちなみに、ある人数で少なくとも一組が同じ誕生日になる確率は次のグラフになる(これを導きだすには、中高生の数学の知識があればできるので、夏休みの時間のある方は挑戦したらどうか。
 少なくとも一組の誕生日が同じ確率は、すべての人の誕生日が違う確率を1から引いて求められる)。

 集団的自衛権の行使は戦争になるという人は、攻められなくなって戦争がしなくなるという場合を考えていないだけだ。
 もっとマジメに戦争のリスクを考えたければ、先週の本コラムで紹介した戦争の多量のデータを見る必要がある。

■?「川を上れ、海を渡れ」

 それにしても、世界のほとんどの国が、集団的自衛権の行使に賛同しているという事実さえ押さえておけば、今の日本の左派マスコミや知識人論調はありえない。
 戦争法案なら、世界の国が賛成するはずない。
 日本の左派マスコミ・知識人は、中国と特別な利害関係があると邪推してしまいそうだ。

 そういえば、ほとんどの世界の国で、日本の集団的自衛権の行使に賛成しているという報道は目立たない。
 安倍首相も答弁しているように、
 「集団的自衛権の行使をしない国というのはスイスを始め極めて少数でございまして、
 そのほとんどは行使が可能という国」
という事実も、あまり国民に知らされていない。
 まして、筆者のように、戦争リスクの低下を定量的に示す意見もマスコミでは報道されない。

 筆者が役人時代に教えてもらって役に立ったのは、「川を上れ、海を渡れ」だ。
 「川を上れ」とは過去の経緯を調べること、
 「海を渡れ」とは海外の事例を調べることだ。
 これらさえやっておけば、そのロジックがわからなくても、判断に迷うことはないというものだ。

 集団的自衛権の行使に当てはめると、川を上れば、朝鮮戦争での機雷掃海、日本での米軍・国連軍の駐留から、集団的自衛権を行使しないという従来政府答弁のおかしさがわかる。
 海を渡れば、世界の事例の多さにそのおかしさを直す確信が得られる。
 しかも、国際政治・関係論からデータもたっぷりもあり、集団的自衛権行使の合理性もわかる。

 これらを報道しない左派マスコミはかなりおかしい。



サーチナニュース 2015-07-28 11:03
http://news.searchina.net/id/1582997?page=1

日本の「中国脅威論」
・・・増税と軍事費拡大が目的=中国メディア

 中国メディアの央広網は23日、日本政府が21日にまとめた2015年版の防衛白書において、
  「安全保障関連法案と日米同盟の必要性」
が強調され、
 「海洋問題を活用して中国脅威論を吹聴した」
などと主張し、日本が中国脅威論を煽るのは増税を進め、軍事費を拡大するためだと主張した。

 記事は、15年版の防衛白書はここ10年ほどでもっともページ数が少なくなったとしながらも、
 「中国に言及した箇所はむしろ増えた」
と主張。
 中国の軍事政策を悪意を持ってまとめたと報じ、中国脅威論を煽動する内容だった
と批判した。

 さらに、軍事評論家の宋曉軍氏の発言として
 「中国の軍事に対する防衛白書の懸念度合いは往年を超えている」
と伝え、
 日本の安全保障が厳しい環境にあることを主張することで安全保障関連法案の必要性を示す狙いがある
と伝えた。

 続けて、15年度の日本の防衛費は前年比2%増で過去最高を更新したと伝え、宋曉軍氏が
 「日本は防衛白書で中国脅威論を強調することで消費増税につなげ、軍事に投入する費用をさらに拡大しようとしている」
と述べたことを紹介。
 さらに、
 米国は日本に対して「これまでより大きな責任を果たすよう望んでいる」
とし、そのために米国は日本の集団的自衛権の解禁に同意したと主張し、
 「日本は軍事費を拡大しなければ米国の支持に背くことになってしまう」
と主張した。

 また記事は、15年版の防衛白書は
 「日本が過去の戦争に対する罪を真剣に反省していないことを示すものだ」
と主張。
 さらに、日本は過去の戦争を反省しないどころか、むしろ中国の脅威を強調し、アジアの正常な経済発展と安定を破壊しようとしていると批判した。



JB Press 2015.8.4(火) 柯 隆
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44430

引くに引けない日本と中国、衝突は起きてしまうのか
崩れてしまった東アジアの「力の均衡」

 終戦から70年を迎えるこの節目の年に、東アジアのすべての人は戦争について反省し、不戦を誓わなければならない。
 東アジアの情勢は決して安定していないからである。

 日本では、安倍政権が憲法の解釈を変えることで、集団的自衛権の行使を可能にしようとしている。
 本来ならば、集団的自衛権だろうが個別的自衛権だろうが、いずれもその国の主権に関わる問題であり、外国政府や外国人がとやかく言うべきではない。
 だが、歴史とは連続的なものである。東アジア域内において中国と韓国は、日本政府に対して繰り返し過去の戦争についての反省と謝罪を求めている。
 70年前に戦争は終わったが、東アジアにおいて戦後の処理はまだ終わっていないと言える。

 日本政府は、集団的自衛権を行使できるようにする理由として周辺事態の変化を挙げている。
 だが、中国を刺激しないよう、あえて中国を名指ししていない。
 しかし、安保の専門家でなくても、新安保法制の目的が中国への対策であることは明々白々である。

 米軍が敵国に攻撃された場合、日本の自衛隊に守ってもらうような場面が本当にありえるのだろうか。
 日本の本音としては、
★.日本が中国の脅威にさらされた場合、
 日米安保条約で約束されている
 米国の軍事的支援は不十分であるから、
 日本自身も防衛力(軍事力)を強化する必要がある
ということであろう。

■覇権を確立することになる中国

 かつてナポレオンは「眠れるライオン(中国)が目覚めるとき、世界は震撼するだろう」と予言した。
 今の中国は間違いなく目覚めたライオンだと言える。

 中国は35年前に門戸を開放したとき、世界の最貧国の1つだった。
 日本を含む先進国のほとんどは中国の「改革・開放」は容易には成功しないだろうと見ていた。
 しかし蓋を開けてみると、1979年を起点とする「改革・開放」政策はわずか30年で結果を出し、中国経済は世界第2位にまで成長した。

 振り返れば1990年代、先進国のマスコミはことあるたびに中国の「改革・開放」政策が逆戻りするのではないかと書き立てた。
 だが2000年代に入ってからは、グローバル社会における中国に関する見方は「中国脅威論」が主流となった。
 中国の経済発展は世界に脅威を与えるというのである。
 それに対して中国政府は、自国の経済発展は平和的台頭であると定義し、覇権は求めないと主張している。

 辞書によれば「覇権」(hegemony)とは、特定の集団において長期にわたってほとんど不動とも思われる地位あるいは権力を掌握すること、と定義されている。
 覇権は自ら求めて獲得するものではない。
 一国の総合的な国力が強化されると、必然的に覇権を握ることになるのである。
 よって、中国の国力が今後さらに強化されれば、覇権を求めなくても覇権が確立するであろう。

 国力の弱い小国が国力の強い大国を恐れるのは人類社会の常と言える。
 今の中国について最も脅威と感じているのは、おそらく東南アジアの小国であろう。
 中国による南シナ海の小さな島々の埋め立て増設工事は、フィリピンやベトナムなどの小国にとり大きな脅威である。 しかし、中国経済が今後も成長を続けることを考えれば、東アジア域内における覇権はいっそう強まっていくものと思われる。

■東アジアの「力の均衡」は崩れてしまっている

 では、日本はどうか。日中が再び戦争に突入する危険性はないのだろうか。

 歴史上、あらゆる戦争は平和の維持を口実に行われた。
 これからも、おそらくすべての戦争は「正義」と「平和」のために行われるのであろう。

 しかし、戦争が起きる根本的な原因を考えてみると、国際社会における力の均衡が崩れてしまうことが戦争を引き起こすのである。
 東アジア域内の政治・外交力学の均衡はとっくに崩れてしまっていると言える。
 多くの識者が指摘しているように、もはや中国の経済発展を食い止めることはできない。
 中国の経済が発展すれば、必ずや海洋戦略を軸に影響力を拡大していくだろう。

 とはいえ、中国の立場に立って考えれば、戦争はできるだけ避けたいと考えているはずである。
★.中国が戦争をしたくない理由は、
1].戦争に突入した場合、国際社会から非難を浴びることに加え、
2].戦争に絶対に勝てる戦力を保持していないからである。
 そのうえ、
★.中国経済の発展がこれ以上減速すると、社会不安が深刻化する。
 さらに、
★.増強している軍事予算は抑止力として役に立つだろうが、
 実際の戦争には額面通りの威力を発揮しない
とも推察される。

■小規模戦闘の可能性は否定できない

 日中の対立に目を転じると、歴史認識の違いは国民感情の問題に過ぎない。
 最も深刻なのは、領土領海の領有権を巡る対立である。
 この問題の厄介なところは、日中両政府とも引くに引けない状況にあるということだ。

 尖閣諸島の領有権を主張しているのは、日本と中国北京政府だけではない。
 台湾も参戦している。
 筆者は、ビザの関係で台湾を訪問したことがないが、ある日本の友人によれば、台湾の空港から飛び立つ沖縄行きの飛行機には「琉球行」と書かれているそうだ。
 歴史、風俗と習慣からみれば、沖縄と台湾は極めて近い存在である(むろん、領土・領海の領有権は風俗や習慣が似ているかどうかとは別問題であるが)。

 ここで警鐘を鳴らしたいのは、
★.日中が全面戦争に突入する可能性はゼロに近いが、
★.尖閣海域において小規模戦闘になる可能性は否定できない
ということだ。

 日本は安保関連法案の採択で集団的自衛権を行使できるようになる。
 これで日本は「普通の国」へと大きな一歩を踏み出すことになる。
 一方、中国の総合的な国力の増強は食い止められない。
 尖閣海域で日中両政府が領有権を主張するため、互いに公船と艦船を配備するなかで、局所的に衝突が起きる可能性は決して低くはない。

 残念ながら、日中間でこうしたリスクをヘッジするメカニズムが作られていない。
 終戦70周年を迎える今日、日中が再び開戦の危機にさらされるのは本当に残念なことである。



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2015年08月04日(Tue) 
小原凡司 (東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5226

南シナ海と東シナ海の連動
予期せぬ衝突が起きる可能性
中国の力による現状変更を阻止できるか?

 「プラットフォームにレーダーを配備する可能性がある。
 空中偵察などのためヘリコプターや無人機の活動拠点として活用する可能性もある」
 2015年7月10日の衆議院平和安全法制特別委員会における、中谷防衛大臣の発言である。
 中国が東シナ海の日中中間線付近で建設している海上プラットフォームが、安全保障上の懸念になり得るとの認識を示した。


●防衛省が公開した東シナ海にある中国の海上プラットホーム(防衛省/AP/アフロ )

 中国の海上プラットフォームが軍事利用される可能性があるということだ。
 しかし、中国は最近になって新たなプラットフォームを建設し始めたわけではない。
 中国は、東シナ海の日中中間線付近においてガス田の開発を継続してきた。
 2013年から現在に至るまで、新しい海上プラットフォームを建設し続けている。

■裏切られた中国の楽観的な予想

 この時期に日本政府が公表したのには、日本周辺の安全保障環境の変化を示し、国会における安全保障法制の議論を有利に運びたいという思惑があるかも知れない。
 
 それにしても、
★.中国は、二正面で、力による現状変更を試みようとしているのだろうか?
  中国は、南シナ海でも、米国と対立を深めているのだ。

 2015年5月20日、米海軍は、P-8A哨戒機にCNNのテレビ・クリューを搭乗させて南シナ海の監視飛行を実施し、中国の人工島建設の様子などを報道させた。
 CNNの報道を見て、北京は驚き、腹を立てただろう。
 そうでなくとも、北京の指導者たちは、米国の監視飛行に苛立っていたはずだ。

 一方で、国際会議等で発言する外交部や研究者には、楽観的な空気もあった。
 「これだけ、米中経済相互依存が進む中で、米国は最終的には中国との衝突を避けるはずだ」
と言う。
 現に、これまでは、米海軍機が中国の人工島周辺空域を飛行しても、米国はそれを公表してこなかった。
 米中間の、水面下の駆け引きのはずだったのだ。

 しかし、中国の楽観的予想は裏切られた。
★.米国は、対立のステージを上げたのだ
 中国が南シナ海で行っていることを、世界中に知らしめたのである。
 CNN報道の後、日本のみならず、欧州でも、
★.中国の行為が、「航行の自由」という国際規範を脅かす可能性があると考え始めた。

 さらに、米国防総省スポークスマンのウォレン中佐が、
 「ポセイドン(P-8A)が、中国が人工島周辺に主張する12NMの領界に入ることは、将来、起こりうる」
と述べたのだ。
 これは、中国にとっては決して受け入れられない。
 米国は、中国の南シナ海コントロールの根拠を、軍事力を用いて根こそぎ否定してやると公言したに等しいからだ。

 中国が南シナ海に主権が及ぶとする根拠は、南沙(スプラトリー)諸島の領有にある。
 「中国は、南沙(スプラトリー)諸島及びその付近の海域に対して、議論の余地のない主権を有している」
という外交部による発言が、中国の論理を示している。
 南沙(スプラトリー)諸島に対する領有権が否定されると、中国は南シナ海における権利主張の根拠を失ってしまう。

 中国は、これまで、表向き、人工島建設が軍事目的だとは言ってこなかった。
 4月29日には、テレビ電話による会談で、呉勝利・中国海軍司令員がグリナート米海軍作戦部長に対して、岩礁埋め立ては
 「航行や飛行の自由を脅かすものではなく、国際海域の安全を守るという義務を履行するためだ」
と述べ、米側の理解を求めた。

■米国にとって、埋め立て完了だけでは不十分

 さらに、呉司令員は、「気象予報や海難救助などの能力向上につながる」と説明し、将来、条件が整った際は「米国を含む関係国や国際組織が施設を利用することを歓迎する」とも強調した。
 中国は、表面上は協力姿勢を保ちつつ、米国と駆け引きするつもりだったのだ。

 しかし、中国は、新たな対応を迫られることになった。
 中国外交部のスポークスマンは、「こうした行動(P-8Aの監視飛行)は、事故を引き起こす可能性があり、無責任で危険であり、地域の平和と安定を害するものである」と述べて、米国をけん制した。

 2015年5月31日、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)において、孫建国・中国人民解放軍副総参謀長は、中国が南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島での埋め立てについて、
 「軍事防衛上の必要性に加え、
 海上救難などの国際的な義務も果たせる。
 埋め立ての速度や規模は大国としてふさわしい。
 合理的で合法的なものだ」
と、軍事的な目的を含む作業の正当性を主張した。

 孫副総参謀長の発言は、
 中国高官が、初めて「人工島が軍事防衛上の目的を有している」ことを公式に認めた
ものとして、国際社会の関心を集めた。
 また、孫副総参謀長は、
 「公正と客観性を原則に、国際的な問題を見るべきで、各国がとやかく言って、対立をあおるべきではない」
と、中国を非難する国際社会をけん制した。

 米中両国は、互いにけん制した後の、2015年6月23日及び24日、ワシントンで開催された戦略・経済対話(SED)で、再び南シナ海問題を議論している。
 この際、リベラルで知られるバイデン米副大統領が、開幕の演説で
 「海上交通路が開かれ、守られていることがこれまで以上に重要になっている」
と、中国をけん制した。

 これに対して、杨洁篪・国務委員は「中国は航行の自由を強く支持している」と述べ、汪洋副首相は
 「対抗すれば双方が代価を払う。
 対抗より対話がよりよい選択だ」
と応じた。
 中国は、米国との対決を避けた形だ。
 実は、中国指導部は、戦略・経済対話に出席する中国側代表団に、お土産を持たせて、米国の反応を見るつもりだった。
 6月16日、中国外交部が、岩礁埋め立てについて
 「既定の作業計画に基づき、埋め立て作業は近く完了する」
と発表していたのだ。

 しかし、米国にとって、埋め立て完了だけでは不十分だ。
 ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、中国外交部発表2日後の6月18日、戦略・経済対話を前に記者会見し、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島での岩礁埋め立て及び軍事拠点化の中止と、「航行と飛行の自由」の尊重を中国側に求める考えを示した。

★.現段階では、米軍機に人工島の12NM以内を飛行されても、中国には有効に対処する手段がない。
 追い詰められているのは中国の方だ。
 海底の珊瑚を積み上げただけの人工島は、地盤の強度に問題があるだろう。
 航空機を運用するには、高温多湿の悪条件の下で扱いの難しい燃料と弾薬を貯蔵する施設が必要だ。
 また、人工島には水がないため、搭乗員や整備員を常駐させるとすると、これら人員のための真水を蓄えておく必要もある。
 こうした設備を建設できるかどうかは疑問なのだ。

 しかし、中国も対処できないでは済まされない。
 パトロール中の中国戦闘機が、米軍機と遭遇することができたとしたら、必要以上に、「何かできる」ことを示そうとすることが考えられる。
 危険な示威行為をする可能性があるのだ。
 却って、予期せぬ衝突が起きる可能性が高くなるという見方もできるのである。

■“力”を用いず、
 議論を通じて解決のための努力をするというのは、最低限のルール

 さらに、中国は、日本が南シナ海においてパトロール等を実施する決定をすれば、東シナ海において、海警局や海軍の活動を活発化させ、日本牽制を強めるだろう。
 海上プラットフォームも、空域監視或は日米潜水艦の活動を探知するために使用されるかもしれない。
 中国軍事力等の活動が活発化するという意味において、短期的には対中抑止は効かない。

 南シナ海と東シナ海における問題は、連動するということである。
 中国にとっては、二正面というより、日本に南シナ海の問題に関与させないための陽動かもしれない。
 いずれにしても、日本が対処しなければならない事象は増加するだろう。

 しかし、
★.日本は、誰かが“力”を用いて一方的に「現状」や「国際規範」を変更しようとすれば、
 これを止めることができるのは、他の“力”だけだ、という事実を、認識しなければならない。 
 国際社会が抑止しなければならないのは、力による現状変更である。

 世界政府が存在しない国際社会において、問題を解決する際に、“力”を用いず、議論を通じて解決のための努力をするというのは、最低限のルールである。
 日本は、国際社会の一員として、この最低限のルールを守るべく、各国との協力を深めなければならない。




中国の盛流と陰り



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